研究内容ー体節形成

私たちの背骨や肋骨といった、体の前後軸にそった繰り返し構造は、体節という発生過程にだけ見られる組織に由来しています。体節とは、将来椎骨や肋骨、骨格筋、皮膚といった組織に分化する細胞群であり、一定の時間(マウスではおよそ2時間)ごとに、未分節中胚葉(presomitic mesoderm, PSM)とよばれる未分化な細胞の中から、ひとかたまりの細胞集団がくびれ切られることによって形成されます。
この周期性を制御している分節時計の存在が示唆され、私たちは、マウスPSM特異的に発現するbHLH型転写因子Hes7を発見し、Hes7が体節形成に必須であることを明らかにしました(Bessho et al., 2001a2001b)。Hes7の発現はPSMにおいて2時間周期でオシレーションを繰り返しますが、これにはHes7タンパク質の転写抑制活性と不安定性が必須であることを示しました(Bessho et al., 2003; Hirata et al., 2004; Ishii et al., 2008)。さらに、Hes7のオシレーションには、イントロンによる発現タイミングの遅れの効果が重要であることも明らかにしました(Takashima et al., 2011)。
 一方で、PSMでの複雑なシグナルネットワークの中で、Hes7はFgfシグナルやNotchシグナルと協調的に作用することで、振動性のシグナルネットワークを生み出し、分節時計のシステムを作り上げることを明らかにしました(Niwa et al., 2007; Gonza´lez and Kageyama, 2009)。そして、Hes7は振動性のFgfシグナルに時間情報をのせ、振動性のNotchシグナルに空間情報をのせて、周期的に体節予定領域を決定していくことも明らかにしました(Niwa et al., 2011)。これにより、周期的な体節形成の仕組みを説明するために30年以上前に提唱された“Clock and Wavefront model”を分子生物学的に説明できるようになりました(Cooke and Zeeman, 1976; Kageyama et al., in submission)。
 また、私たちはこうした遺伝子発現の短周期リズムを、不安定化ルシフェラーゼを用いてリアルタイムで観察する実験系を確立し、体節形成過程だけでなくES細胞や神経幹細胞の分化調節においてHes遺伝子のオシレーションの重要性を明らかにしています(Masamizu et al., 2006; 2時間を刻む生物時計や幹細胞分化調節の項を参照)。

 

図2:体節形成過程におけるHes7の発現(左)とオシレーターネットワーク(右)

当研究室のテーマ

神経発生

体節形成

2時間を刻む生物時計

成体脳ニューロン新生

・幹細胞分化調節