研究内容

「脂質免疫の研究」

 杉田はハーバード大学在籍中(1991年〜2001年)、脂質抗原を提示するヒトグループ1CD1分子(CD1a、CD1b、CD1c)の細胞生物学的研究を進め、その細胞内輸送経路のほぼ全容を明らかにするとともに、その輸送経路に異常のあるヒトの病気を報告しました。下図はCD1b分子が発現した樹状細胞のリソソーム(MHC class II compartment: MIIC)の電顕写真です(編集者が色づけして、Science誌の表紙を飾りました)。

miic

 

 帰国後は、それらの知見を病気の理解や制御に活かしたいと考え、結核の研究を始めました。結核菌は脂質に富む細胞壁を有することが特徴で、しかもペプチド抗原提示を担うMHC分子の機能を抑制することが知られていたので、脂質免疫がとりわけ重要であろうと考えたからです。ヒト培養細胞だけでなく、モルモットやCD1トランスジェニックマウス、そしてアカゲザルの解析システムを立ち上げ、これらを用いた免疫・脂質生化学研究を展開してきました。得られた成果はいま新たな脂質ワクチンの開発へと結実しようとしています。

 詳しい内容は、基盤研究「CD1バイオロジーと結核免疫」を参照してください。

 

 一方、ウイルス感染防御における脂質免疫の存在と意義を追究する目的で、エイズウイルスの研究を始めました。その結果、脂質修飾を受けたウイルスタンパク質が獲得免疫の標的となることを発見し、「リポペプチド免疫応答」という新しい免疫パラダイムを確立しようとしています。

 詳しい内容は、 発展研究「エイズウイルス由来リポペプチドを標的とした新しい免疫応答」を参照してください。

 

 免疫学の多くの優れた研究は、マウスやラットを活用し、そして水に溶ける物質を扱ってきました。しかし私たちが研究している「脂質免疫」のシステムは、例外的にマウスとラットには存在しません。また当然のことながら脂質は水に溶けません。したがって、「脂質免疫」の研究にはさまざまな「工夫」が必要です。

 その辺りも含め、エッセイ集にある日本免疫学会ニュースレター寄稿文 うちのとくいわざ:免疫研究と脂質生化学研究の融合 ~脂質免疫の解明に向けて~ を参照してください。