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1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第5弾
京都大学再生医科学研究所 田畑泰彦

【プロフィール】
田畑 泰彦(たばた・やすひこ)
1981年京都大学工学部高分子化学科卒業、同大学院に進学し1988年に工学の博士号を取得。その後、京都大学医用高分子研究センター助手、同大学生体医療工学研究センター助教授を経て現職。教授就任後、2002年に医学、さらに翌年薬学の博士号を取得。

京都大学再生医科学研究所 田畑泰彦 *先生のプロフィールは、アーカイブをご覧ください。

●第3回「実用化されてこその研究」

──前回までに、大学は将来を見据えた基礎研究と研究成果を患者様に届ける努力を並行して行うべきだ、というお話を伺いました。大学での基礎研究を実用化にこぎ着けるまでの壁を乗り越えるコツはなんですか。

田畑 簡単です。何回もいうように“べたおり”です。「おれは偉くない」「よく来てくれました」「私の技術をどうかよろしくお願いします」です。たとえば、DDSを使いたいとある企業がくる。「うちのDDSはこうです」「それはいいですよね。じゃあお願いします」と言うでしょう。そのあと、聞くのです。おたくの企業ではどんなことをやっているのですか、聞き出して、その内容がおもしろかったら、あるいは自分の研究と関係があれば、応用できれば、積極的にどんどん組んでいきます。ただでは帰しませんよ。私のところに来てもらったのだから、もちろんこれはやりますけど、これもやりましょうよ。そのときに5、6個くらいの共通の興味をつくってしまいます。 先日、中学生から電話がかかってきた。「田畑先生、ぼくらは名古屋の中学生なのですけど、今度京都に行くのです。京都大学で再生医療をやっているというのでレポートを書きたいので30分くらい話させてください」と。普通だったら、忙しいからって相手にしないでしょう。私は、「それはいいことだ。それならおっちゃんが教えてやるから来い来い」と(笑)。そんなノリですよ。しかし、30分でも私はものすごくきちんと丁寧に話します。子供だから、中学生だからといって、いい加減な話はしません。このような対応を私はやっています。それがあるから、どんな人でも興味をもち、ある時には実用化へと話が展開するのですね。うまくいかなくてもずっとつながっていくのです。ところが、大学の先生というのは、たとえば、自分がこの人とやりたいときには、近づいていきますよね。うまいこといったらそれでいいと。うまくいかなかったら、その次からは、「こんにちは」とは言うけれども、特に、親しく話すわけでもない。別につきあいを続けなくても学問の世界では生きていける。しかし、実際の世の中は違いますよ。ものを買いに来た。その人は買わないからいい加減にしていて、その人に「あそこの店は愛想が悪い」と言われたら、それでおしまい。そんなことは絶対にしてはいけない。

──すべては人とのつながりということですね。

田畑 人の出会いというのは3段階あると考えています。いちばん最初は人に出会うこと。名刺交換して、「よろしくお願いします」。これはみんな機会均等ですね。そのあと、それを育てるというのが、ステップ2です。自分のネットワークに入れてしまう。多くは1段階で終わってしまうのをどうやって第2段階にするかというと、たとえば近くに行ったときにちょっと電話をかけるとか、手紙を書くとか、うまくいっていなくても「先生、どう?」みたいな感じでやる。そうしたら、人間というのはつながっていくわけです。それで最後は、たとえば食事にでも行ったり、家族ぐるみのつき合いができる。そこまで行ったら、完璧に人脈ですよね。うちに来ている企業がどういうところか。だいたい皆さん、製薬メーカーとかメディカルの会社と思うでしょう。違うのですよ、携帯電話の会社が来ています。それとか光ファイバー。なんでそれが再生医療に関係ありますか。

──わかりません…。

田畑 ある技術を開発した。その先には、これを世の中に出すことが目標となる。このためには、規格化することが大切となります。技術にばらつきを出さないという規格化のノウハウは、企業が持っている。これは日本が断トツ世界一です。将来、この技術が進んでいったらどの技術に応用できるか、他領域に要るか、これから伸びる企業、領域を探すのですね。違う業種の企業を通じて調べたら、いくらでも聞けますよ。同じ業種だったら絶対言わないですけど。いろいろな会社でも毎日のように会っていますから、このような時には、「ああ、この会社」ということになります。そこで「私はこういうことを知りたいから、ちょっと来てください」とお願いする、すると最初はだいたい研究職の人が来る。あるいは、開発企画の人が来る。「これはおもしろいから、だまされたと思って一度、詳しい話を聞いてもらえませんか」。それは一回では言えないのでと、うまく話をつないでいきます。2ステップです。つないでいって、仲良くなってきたら、「それじゃ先生、うちの社長にも話をしたから」となっていく。「社長さん、今はわからないけれども、将来これがものすごく大切になるのです。今、世の中の人は気づいていません。先行投資しませんか」と話を聞いてもらう。このやりとり、まさにビジネスマンでしょう?そうしたら社長さんが考えて、「田畑はちょっとおもしろいし、信用できるから、1年くらい社員を送ろうか」と。だから私は常に“べたおり”で、相手の立場に立って話をするし、どんな人でも一生懸命真剣にしゃべるし、本当に必要であれば自分の技術を売り込みにも行きます。わかってもらえるまで。それができたらOKです。特別な乗り越えるコツなどはありません。だって人間社会だもの。

──1つの基準として、それが世の中にどう役立つかということでしょうか。

田畑 本当に研究を実用化したかったら、研究を実用化するところまで自分でやらなければ駄目です。待っていても誰も来ません。「おれは研究者だから、それはおれのやる仕事じゃない」、それは違います。地べたをはいずり回って売り込まなければいけません。本当にやりたいのだったら。それがいま日本に求められていることだと思うのであれば、自分で動く。そういう感覚というのが大切です。 企業と組むときに大切なことは、本当にその会社が最後までやってくれるかということです。会社と具体的な話をする時には、「うまいこといかなかったら、あるいは企業で実用化する気がなければすぐに返してください」といつも言います。しかし、しばしば、企業からの返事が遅いその理由は、主に2つですね。決定が遅いというのと、もう1つは、断る理由を探している。私は最初から「1週間で決めてください。1週間で駄目だったら、駄目とすぐ言ってください。私は、この返事によって、今後のつき合い方は変えませんから」と言います。そういうふうに言っておくと、会社は安心します。「私はあなたを選んだのだから、こういうふうにちゃんとやってください。ここまで行ってください」。もちろん、会社と組むときは商品化というのを目指します。

──先端医療研究はどこを目指し、どうあるべきでしょうか。

田畑 患者さんを今ある技術で治せることを、早く臨床に上げることです。細胞移植というのもいいのですけれども、現時点では、多くの患者さんは治せない。将来は、治せるようになることを祈ります。でも、今の患者さんを治せることを、もっとやらなければいけない。たとえば何百億円かけて、1年間で6人くらい治したって、それは本当に治療ですか、正直言って。このような方向性を僕は否定しませんけれども、本当にどうあるべきかというと、今できる技術で患者さんを今、治さなければいけない。この辺りの感覚をもうちょっと持ってほしいということと、それに若い研究者に興味を持ってもわらなければいけない。ところが、今の流れから言うと、「10年先に患者さんが治ればよい」となる。これではちょっとまずいのではないですかということです。

<最終回 「研究者として、教育者として」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/編集:RegMed-now編集室・シーニュ)