京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 免疫制御分野
生田研究室 Ikuta Laboratory
Institute for Frontier Life and Medical Sciences

免疫系の分化・維持・応答の分子メカニズムをサイトカインの視点から研究しています。

エッセイEssay

研究が大きく進む時

ポスドクとして米国スタンフォード大学に留学した際、マウス胎児肝臓の造血幹細胞を精製、解析するというプロジェクトを始めました。同じ研究室に私より半年早く留学されていた先輩が、赤血球に反応するモノクローナル抗体を日本におられた際に樹立されていました。その抗体を使わせていただけたことにより、胎児肝臓からの幹細胞の精製が初めて可能になりました。しかし、その後、なかなかおもしろい結果が得られなかったのですが、ある日、ボスが、「もう胎児型γδT細胞への分化を調べたかい」、と尋ねてきました。当時、胎児型γδT細胞が胎児期の胸腺においてのみ分化することがわかり始めており、それが胎児期の幹細胞に固有な性質なのかどうかということは、確かに興味ある問題でした。しかし、その解析のために必要な胎児型γδT細胞に反応するモノクローナル抗体は、他大学の研究室だけが持っていまして、なかなか入手が難しい状況でした。そのような時、たまたま昼食時に、同じフロアーの友人が、最近同じような抗体を開発したポスドクが彼の研究室にいることを教えてくれました。そして、この2つの抗体と1つのアイディアのおかげで、その後私のプロジェクトは大きく展開することになりました。

プロジェクトが大きく進む時には、このように自分の力だけではどうすることもできない複数のよい巡り合わせに恵まれることが多々あります。そして、このような「巡り合わせ」、すなわち「生きた情報」は、人と人の直接のコミュニケーションから得られることが多いものです。その重要性は、あらゆる情報がインターネットを介して瞬時に入手できるかのように思える現代にこそ大きいと言えます。研究室の若い人たちによく話していることですが、大学院の間に、所属する研究室だけではなく、専門分野が少し異なる近辺の研究室の同輩や先輩と、できるだけお友達になってもらいたいものです。一人の人間が直接あつかえる情報量は限られていますが、自分が知らないことをよく知っている人をたくさん知っていれば、その問題は解決できるのです。そういう意味において、研究活動もとても人間的なものです。[2006年1月19日]