エッセイ

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2011年ウイルス研究所アニュアルレポート 研究室紹介

2004年9月に杉田が着任し、学生が着実に成長・自立できる研究指導環境の確立を目標にまさしくゼロから立ち上げてきた研究室は、2011年ようやくその使命を果たし始めた。

 まだ海のものとも山のものとも分からなかった研究室の第一期生として、2006年生命科学研究科修士課程に入学した森田大輔君は、5年の年月を経て、リポペプチドを標的とした新しい免疫経路を、サルエイズモデルを用いて実証し、学位を取得した。また第二期生として、2007年生命科学研究科博士後期課程に編入学した小森崇矢君は、モルモット結核モデルを確立するとともに、結核菌脂質を標的とした新しいタイプの遅延型アレルギー応答を実証し、学位を取得した。ともに、免疫学の先駆的発見であり、二人の若い研究者の真摯な努力と研究への情熱を心から賞賛したい。二人は優秀な研究者であるだけでなく豊かな人間性の持ち主であり、彼らがいなければ研究室の発展はなかったであろう。現在森田君は研究室の大黒柱として活躍し、小森君は臨床医を目指して医学部で学んでいる。

 さて、研究室に博士後期課程の学生が居なくなった状況の中で、生命科学研究科M2の服部祐季さんは大車輪の活躍をみせた。小森君が発見したTH1タイプの遅延型アレルギー応答とは対極をなすTH2タイプのアレルギー応答を実証し、それを誘起する結核菌脂質を同定した。この応答は結核菌潜伏感染の鍵となる可能性が高い。M2進級まもなく論文を発表し、さらにCD1トランスジェニックマウスやサル結核モデルの解析など、研究室の中核プロジェクトにおいて、牽引的役割を果たした。学振特別研究員DC1にも内定し、さらなる成長を期待している。

 一方、新しい修士学生三名(石橋理基君、花川奨君、山本侑枝さん)を迎えた。三名ともまだまだ発展途上だが、その分研究者としての伸びしろが大きい点、楽しみである。それぞれ結核慢性感染の免疫機序の解明、結核休眠菌の新しい実験モデルの確立、がん細胞リポペプチド応答の分子細胞機構の解明を目指した研究を進めている。教授からの厳しい指摘に対しても、毅然と自己主張できるようになってきたことは、大きな成長である。

 脂質生物学と免疫学を有機的に融合し、結核とエイズをモデルとして「脂質免疫」の全容解明を目指す研究は、ようやく第一歩を踏み出すことができた。若い研究者の成長を原動力として研究室が発展してゆける確信めいたものを感じた1年であった。