エッセイ

back_to_essay

2012年ウイルス研究所アニュアルレポート 研究室紹介

 2004年9月に杉田が着任し、学生が着実に成長・自立できる研究指導環境の確立を目標にまさしくゼロから立ち上げてきた研究室は、2011年ようやくその使命を果たし始めた。

 杉田が着任して8年目を迎え、陣容の面でも、また研究面でも新たな転換の年であった。まず、研究室の設立当初(2004年)より、教員として研究の推進ならびに学生教育に大きな貢献をしていただいた松永勇准教授が退職され、新たな道を踏み出された。ハーバード大学医学部で結核菌脂質の最先端の研究をされていた松永博士に何度もお願いをして、着任していただいたことが昨日のことのように思い出される。松永博士が2008年に筆頭著者として発表された結核菌糖脂質変換の機構は、世界的にも高い評価を受けており、研究室の基盤研究のひとつとして現在も継続、発展している。松永博士には、今後基礎・臨床両面でのご活躍を心からお祈りしたい。

 一方、若い力もすくすくと伸びてきた。杉田研の第一期大学院生として参加した森田大輔君は、博士(生命科学)の学位を取得したのち、今年度より日本学術振興会特別研究員PDとして採用され、霊長類モデル研究領域の五十嵐樹彦教授と連携して、アカゲザル免疫研究を大きく発展させた。また生命科学研究科博士後期課程に進学した服部祐季さんは日本学術振興会特別研究員DC1として採用され、結核研究の本質的課題である結核肉芽腫の本態解明に適した動物モデルを確立し、研究を推進した。生命科学研究科修士2年の山本侑枝さんはリポペプチド抗原提示分子の同定に向けてモノクローナル抗体を作製し、生化学解析を進めている。新たに研究室に参加した生命科学研究科修士1年の一瀬大志君、田代寛実さん、宮本歩己さんは、それぞれに独自のプロジェクトを進める傍ら、先輩のプロジェクトをサポートするなど、新人とは思えない活躍ぶりである。

 研究面では、モルモットやCD1トランスジェニックマウスを用いた基礎研究がおおむね完了し、ヒト免疫病態の解明に向けて、アカゲザルを用いた研究および患者さんより提供をいただいたマテリアルを用いた研究へと大きく舵を切りつつある。とりわけアカゲザルエイズモデルの解析から発見されたリポペプチド特異的細胞傷害性T細胞応答の研究は、いよいよ新しい免疫パラダイムの確立へと近づいてきた印象である。またサル結核モデルを活用して、霊長類における結核菌糖脂質特異的T細胞応答を、世界に先駆けて生体レベルで詳細に解析した。この研究は、さらに抗結核糖脂質ワクチンの開発へと進展しようとしている。これらのアカゲザル研究の順調な進展の背景には、ウイルス研究所の全面的なバックアップをいただいていることがある。この場を借りて、お礼を申し述べたい。

 脂質生物学と免疫学を有機的に融合し、結核とエイズをモデルとして「脂質免疫」の全容解明を目指す研究は、霊長類モデルを活用しながら、大きく展開できてきた1年であった。